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最高裁判所第一小法廷 昭和55年(オ)781号 判決 1981年2月05日

上告人

三洋興産株式会社

右代表者

松浦均

右訴訟代理人

井上忠巳

被上告人

フジモト開発株式会社

右代表者清算人

岩井仙而

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人井上忠巳の上告理由について

所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らし肯定することができ、右事実関係のもとにおいて上告人の本件解約権の行使は許されないとした原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(中村治朗 団藤重光 藤﨑萬里 本山亨 谷口正孝)

上告代理人井上忠巳の上告理由

原判決は民法第六五六条において準用する同法第六五一条の解釈適用を誤り、上告人の主張に対する判断をしなかつたか又は行使すべき釈明権を行使しなかつたため、審理を尽くしていない違法がある。即ち

原判決は、上告人と被上告人との間において、昭和四九年三月二六日、原判決記載の土地につき原判決記載のような管理契約が締結されたこと、及び同年七月三一日頃上告人が被通知人に対し右管理契約解除の意思表示をした事実を認定し、かつ右管理契約の法的性質は準委任であると解釈した上で、「本件土地管理契約は、その性質上、委任者側に管理費の相当期間にわたる不払その他相互の信頼関係を破壊する特段の事情が生じない限り、受任者側から一方的に解約することができないものと解するのが相当である」ので、上告人において前記特段の事情の生じたことの立証がない上告人主張の解約権の行使は許されない、と判定している。(原判決書、理由第三項)

原判決は、本件土地管理契約につき、民法第六五六条の準用する同法第六五一条所定の、受任者の解約権行使を右のように制限する根拠として、その判決理由第二項において、本件土地は、上告人が別荘地として開発造成した広大な土地の一部であること、右別荘地には公共の上下水道の設備がないため、上告人が専用の水道、排水、道路防犯灯等、同別荘地の維持管理に必要な諸施設を設けて自らこれを所有するとともに、別荘地の取得者から管理料を徴収して右施設を使用させることとし、そのために上告人は「三笠パーク別荘苑管理要領」という文書を作成してこれに基いて管理契約を締結していること、本件管理契約もその一であること等を認定した上、右別荘地の所有者は、上告人との間に土地管理契約を結ばなければ、上告人の所有にかかる水道等の諸施設を利用することができず、上告人も管理費を徴収しなければ右別荘地の維持管理はできず、管理契約は右別荘地が別荘地として存続する限り継続するものと予定されていたものであり、従つて、右管理契約が管理者側である受任者の一存で何時でも解約されうるというのであれば、別荘地の利用者である委任者は別荘地の利用を全うすることができないことが明らかである、という「特別の事情」のもとに締結されたものであることを説示している。

右原判決のいう「特別の事情」というものは、その最重要部分は要するに、上告人が本件土地の管理を引受けないときは、本件土地が別荘地としての用をなさないところにある。

然しながら上告人としては、本件管理契約を解除しても本件土地の管理を全面的に拒否するわけではなく、上告人は、本件土地に関する上告人主張のような特別の事情を考慮した一定の条件で、本件土地の管理をする意思を有して居り、このことは原審において度々主張したところであり(原審昭和五三年一一月三〇日準備書面第二項、同昭和五五年一月二一日準備書面(二)第四項)、また上告人は被上告人に対し、第一審以来再三その申入れをしたが、被上告人はこれに応じなかつたものである。即ち上告人としては、被上告人との間の管理契約の存否にかかはらず本件土地管理をする義務を有することを前提とし、ただ管理の条件について上告人の真意に合致せず、誤つて締結されたものであるが故に、本件管理契約を解除したものである。

原判決のいう「特別の事情」は右の事情を全く無視したものであり、このような事情がある本件においては、上告人の為した解約権の行使を阻害する事由は存在しないことが明らかである。

原判決には右の点において、民法第六五六条の準用する同法第六五一条の解釈を誤つた違法があるとともに、上告人の右主張に対する判断を遺脱した違法があるというべきである。仮に上告人の右主張の趣旨及び別異の条件による管理契約不成立の経緯等が明確でなかつたとするならば、原審裁判所としてはその点につき、上告人に釈明を求めるべきである。

然るにその点を確かめることなく、単に本件土地を別荘地として使用するために本件管理契約が必要であるとの認定に基いて、上告人の主張を排斥したのは、審理不尽の違法があるというべきである。

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